ネオトライバリズム

ネオトライバリズムとは、現代社会における新しい形の部族主義を指す言葉です。
従来の血縁や地縁で結びついた伝統的な部族とは異なり、共通の趣味、価値観、ライフスタイルなどを共有する人々が、ゆるやかなつながりによって形成する集団を指します。
近代化やグローバリゼーションの進展に伴い、人々の価値観やライフスタイルが多様化し、従来の共同体や社会的なつながりが希薄化したことが背景にあり、 個人は自らのアイデンティティを確立するために共感できる仲間を求めるようになり、新しい形の「トライバリズム(部族主義)」を形成するようになったと言えるでしょう。

ネオトライバリズムの定義

ミシェル・マフェゾリは、著書『遊牧民の時代』の中で、ネオトライバリズムを「現代社会における、血縁や地縁を超えた、共通の関心や価値観でつながる小集団」と定義しています。
これは、従来の部族のように、固定された社会構造や血縁関係に縛られるのではなく、個人が自らの意志で、共感できる仲間と繋がり、流動的な集団を形成することを意味します。 

ネオトライバリズムの特徴と概念

ネオトライバリズムの特徴としては、以下のような点が挙げられます。

  • 自発的な選択
    伝統的な部族とは異なり、個人が自らの意志で所属する部族を選択できる。

  • 流動性
    部族への所属意識は流動的で、状況や個人の嗜好によって変化する。

  • 多様性
    部族の形態は多様で、趣味、価値観、ライフスタイルなど、共通の関心事を軸に形成される。

  • 仮想空間
    インターネットやSNSの発達により、仮想空間での部族(コミュニティ)形成が加速している。

加えて、人類学者のロジャー・サンダルが提唱する「デザイナー・トライバリズム」も、ネオトライバリズムの重要な概念の一つです。
これは、伝統的な部族の文化や生活様式を、現代的な文脈で再解釈し、ファッションやライフスタイルとして取り入れる現象を指します。
例えば、民族衣装を現代風にアレンジしたファッションや、伝統的な儀式を模したイベントなどが挙げられます。 

ネオトライバリズムの具体例

  • アイドルのファンコミュニティ
    共通のアイドルを応援する人々が、オンラインやオフラインで交流し、一体感を形成する。
  • 特定のブランドを愛用する消費者集団
    ブランドに対する強い愛着を持ち、そのブランドを象徴とするライフスタイルを共有する。
  • オンラインゲームのプレイヤーコミュニティ
    ゲーム内で協力したり、情報交換したりすることで、共通の目標を達成する。
  • 社会運動に参加する人々のグループ
    社会的な課題に対して、共通の意識を持って活動する。

ネオトライバリズムの起源と歴史的背景

ネオトライバリズムは、近代化やグローバリゼーションの進展に伴い、人々の価値観やライフスタイルが多様化し、従来の共同体や社会的なつながりが希薄化したことが背景にあります。

特に、グローバリゼーションによる経済の自由化や情報技術の発展は、人々の移動や交流を促進する一方で、地域社会の崩壊や伝統的な価値観の喪失をもたらしました。
その結果、人々はアイデンティティの喪失や孤独感に直面し、新たな形の共同体や帰属意識を求めるようになりました。

加えて、情報過多の現代において、人々は膨大な情報の中から自身にとって必要な情報を選択し、取捨選択する必要に迫られています。
このような状況下において、共通の関心や価値観を持つ人々が集まり、情報を共有し、互いに支え合うネオトライバリズムは、新たな社会的なつながり方を提供するものとして注目されています。

ネオトライバリズムと関連する社会現象や思想

ネオトライバリズムは、以下のような社会現象や思想と関連しています。

グローバリゼーション

グローバリゼーションは、世界を均質化し、文化や価値観の差異を縮小する一方で、その反動として、地域や文化の独自性を重視する動きも強まっています。
ネオトライバリズムは、グローバリゼーションの中で、失われつつある地域性や文化的なアイデンティティを回復しようとする試みとも捉えることができます。

個人主義

個人主義の台頭により、人々は自らのアイデンティティを確立するために、共感できる仲間を求めるようになる。
ネオトライバリズムは、個人主義的な社会において、人々に帰属意識や連帯感を与えることで、社会的な孤立を防ぐ役割を果たしています。

コミュニティ

従来の地域社会に代わる、新しい形のコミュニティとして、ネオトライバリズムが注目されています。
ネオトライバリズムは、血縁や地縁を超えた、共通の関心や価値観に基づくコミュニティであり、現代社会における多様な人間関係を反映したものです。

アイデンティティ政治

アイデンティティ政治において、人々は自らの所属する集団の利益を追求する傾向があります。
ネオトライバリズムも、共通のアイデンティティを持つ人々が集まり、そのアイデンティティを基盤に、社会的な活動を行うという点で、アイデンティティ政治と共通する側面を持っています。

ネオトライバリズムに対する様々な見解や議論

ネオトライバリズムに対しては、以下のような様々な見解や議論があります。

肯定的な見解

  • 多様性や個性を尊重する社会の実現につながる。
  • 人々に帰属意識や連帯感を与えることで、社会的な孤立を防ぐことができる。
  • 共通の目標を達成するための協調性を促進する。

否定的な見解

  • 排他的な集団意識を生み、社会的分断を招く可能性がある。
  • 集団内の同調圧力が高まり、個人の自由な発想や行動を阻害する可能性がある。
  • 過激な思想や行動に走るリスクもある。

特に、新自由主義的な経済政策が、人々の間の競争を激化させ、格差を拡大することで、ネオトライバリズムのような排他的な集団意識を助長しているという指摘もあります。

学術的な視点からのネオトライバリズム

学術的な視点からは、ネオトライバリズムは、現代社会におけるアイデンティティや共同体のあり方、社会運動の動態などを理解する上で重要な概念として捉えられています。

  • 政治学
    ポピュリズムやナショナリズムとの関連性、政治におけるアイデンティティの役割などが議論されています。

  • 社会学
    消費文化や若者文化におけるネオトライバリズム、社会的な排除や包摂の問題などが研究されています。

  • 文化人類学
    伝統的な部族社会とネオトライバリズムの比較、グローバリゼーションと文化変容の関係などが分析されています。

結論

ネオトライバリズムは、現代社会における複雑な人間関係や社会構造を理解する上で重要な概念です。
これは、単なる伝統回帰ではなく、高度に情報化され、個人主義的な現代社会において、人々が新たなつながりを求める中で生まれた現象と言えるでしょう。  

肯定的な側面としては、多様性や個性を尊重する社会の実現、帰属意識や連帯感の醸成、共通の目標達成のための協調性の促進などが挙げられます。
一方で、排他的な集団意識の形成、集団内の同調圧力による個人の自由の制限、過激な思想や行動に走るリスクといった否定的な側面も存在します。

ネオトライバリズムは、社会に活力と多様性をもたらす可能性を秘めている一方で、社会的分断や対立を招く危険性も孕んでいます。
その影響力を客観的に分析し、社会における役割を深く理解することが、現代社会を生きる上で重要となるでしょう。

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