地震雲

古来より、地震の前には空に奇妙な雲が現れるという言い伝えが、世界各地に存在します。
日本では、戦時中に鍵田忠三郎氏が雲と地震の関係に着目し、独自の研究に基づいて地震雲の分類や地震発生までの日数などを解説した書籍を出版しました。
鍵田氏は、奈良市長を務めていた時代に、公衆の面前で地震予知を行い的中したと報じられ、地震雲の存在を広く世間に知らしめました。
しかし、気象庁は1983年に地震雲の科学的根拠を否定する見解を発表し、 現在でも地震雲と地震の関連性については科学的な結論が出ていません。

地震雲の定義

「地震雲」とは、一般的に、大地震の前に出現するといわれる特徴的な形状の雲のことです。
地震の前兆現象として古くから認識されており、近代地震学が発展する以前から、地震と気象現象を結びつける考え方が存在していました。 

地震雲の形状と特徴

地震雲には、さまざまな形状のものが報告されており、 代表的なものとしては、以下のようなものがあります。

  • 帯状形地震雲
    長い帯状の雲。最も多く目撃されるタイプで、雲が長いほど地震発生が近い、幅が太く色が濃いほど揺れが大きいといわれています。

  • 放射状形地震雲
    震源方向から放射状に伸びる雲。太く長く、色が濃いほど大きな揺れの地震が発生するといわれています。 

  • 波紋形地震雲
    水面の波紋のような形の雲。波紋の中心点が震源となり、雲が長くて色が濃いほど揺れが大きいといわれています。

  • 断層形地震雲
    空と雲の部分がくっきりと層のように分かれている雲。

  • 肋骨状形地震雲
    あばら骨のような形をしている雲。

  • 弓状形地震雲
    弓の形をした雲。雲のたわみの中心点が震源地となるといわれています。

  • 竜巻形地震雲
    たつ巻状の雲。長時間停滞している場合は地震雲である可能性が高いといわれています。

  • 石垣状、レンズ状、点状、綿状(白旗雲)、縄状の低い雲、白蛇状

地震雲とされる雲の中には、通常の雲と区別がつきにくいものもあり、気象学で説明できるものも多いとされています。 一般的に地震雲は、形状が崩れず、同じところに留まるといわれます。
色も白くはなく、グレーだったりオレンジ・赤・黒だったりするケースが多く、時に明るく発光しているように見えることもあります。

地震雲と地震の関連性

地震雲と地震の関連性については、科学的な見解と一般的な認識の間に大きな隔たりがあります。

科学的な見解

気象庁は、地震雲と地震の関連性について、以下のように述べています。

  • 雲は大気の現象であり、地震は大地の現象で、両者は全く別の現象である。
  • 大気は地形の影響を受けますが、地震の影響を受ける科学的なメカニズムは説明できていません。
  • 仮に地震雲があるとしても、どのような雲で、地震とどのような関係で現れるのか、科学的な説明がなされていない。

つまり、気象庁は地震雲の存在を明確に否定はしていないものの、科学的な根拠がないとしています。
多くの地震学者は、地震雲と地震の関連性を示すメカニズムが不明であること、 地震雲の定義が曖昧で統計的な検討が困難であることなどを理由に、地震雲の存在に否定的です。
また、気象学者は地震雲とされる雲のほとんどは、通常の雲の変異型であり気象学で説明できるとしています。
例えば、空に立つように細長く伸びる雲は地震雲だと言われがちですが、これは飛行機雲が伸びたものであり、実際には水平に発生しています。
また、青空と雲の境界がはっきりと分かれている場合も地震雲と呼ばれることが多いですが、これは気団の境目で発生するありふれた現象です。
波打つように広がる波状雲も、大気重力波に伴うものであり、重力場の変動とは無関係です。

地震雲を肯定する研究

一方、地震雲と地震の関連性を肯定する研究もあります。
例えば、榎本祐嗣氏は、2011年3月11日東北沖地震の後に名取市沖合の海上で目撃された渦巻雲や、同年3月24日の金華山沖で発生した渦巻く雲のALOS衛星画像を分析し、これらの雲の生成原因は地殻内の亀裂や断層に沿って拡散・上昇してきた深層ガスに含まれるラドン222誘起のプラズマである可能性を指摘しています。

参考 → 歴史地震資料に散見される“渦巻く雲”について

一般的な認識

一般的には、地震雲は地震の前兆現象として広く認識されています。
特に大きな地震が発生した後は、地震雲の目撃情報がSNSなどで拡散されることが多く、 人々の不安を煽ることもあります。 

地震雲の発生メカニズム

地震雲の発生メカニズムについては、いくつかの仮説が提唱されていますが、いずれも科学的に証明されていません。
代表的な仮説としては、以下のようなものがあります。

  • 電磁波説
    地殻変動によって発生する電磁波が、大気中のイオンに影響を与え、雲の生成を促進するという説。
    具体的には、地震が発生する前に震源付近の岩盤から電磁波が出され、この電磁波によって空気中の電子が加速されます。
    そして、電子が原子に衝突すると、原子核の周りを回っている電子をはね飛ばし、イオン化します。
    このイオンが水滴の核となり、雲が発生すると考えられています。

  • 放射性物質・微粒子説
    地震発生前に地殻から放出される放射性物質や微粒子が、雲の形状に影響を与えるという説。
    例えば、ラドンなどの放射性物質が震源付近から放出され、上昇気流に乗って上空に達すると、水蒸気に飽和した大気中に帯状の雲ができる可能性があります。

  • 地殻変動による電磁気説
    地中の電磁気の変化が、大気中の水蒸気に影響を与え、雲を形成するという説。

これらの仮説は、いずれも科学的な根拠が乏しく、 地震雲の発生メカニズムは依然として解明されていません。

地震雲の歴史的な記録や逸話

日本では、古くから地震の前兆として、珍しい形や異様な形の雲が現れたとする言い伝えがあります。
江戸時代中期の伊予国の僧侶・明逸の著書『通機図解』には、太陽の近くに現れる雲の形から天気を予測する方法が図解されており、その中には、悪天候の前兆となる雲が現れたにもかかわらず悪天候が起こらなかった場合、地震が起こるという記述があります。

「地震雲」という言葉は、戦後、奈良市長を務めた鍵田忠三郎氏が広めたといわれています。
鍵田氏は、福井地震を契機に雲と地震の関係に着目し、 自身の経験に基づいて地震雲の分類や、地震発生までの日数などを解説した書籍を出版し、地震雲の存在を広く認識させました。
しかし、気象庁は1983年に、地震雲の科学的根拠を否定する見解を発表しています。

地震雲とよく似た気象現象

地震雲とよく似た気象現象としては、以下のようなものがあります。

  • 飛行機雲
    飛行機のエンジンから排出された排気ガスが、上空の冷たい空気で冷やされてできる雲。
    長時間停滞している場合、地震雲と誤認されることがあります。
    飛行機雲は、一般的に、エンジンの排気熱で暖められた空気が、上空の冷たい空気と混ざり合って水蒸気が凝結することで発生します。飛行機雲の発生には、上空の気温や湿度が大きく影響します。

  • 波状雲
    大気中の波によってできる雲。 地震雲とされる波紋形や放射状形の雲と似ていることがあります。
    波状雲は、大気中の安定した層と不安定な層の境界面に発生する波によって、空気が上下に振動し、水蒸気が凝結してできる雲です。

  • 巻雲、高積雲、層積雲
    上空にできる雲。
    これらの雲が、特定の条件下で地震雲のような形状になることがあります。
    巻雲は、氷の結晶でできた白い雲で、羽毛のような形をしています。高積雲は、白い塊状の雲で、羊の群れのように見えることもあります。
    層積雲は、灰色または白色の層状の雲で、空全体を覆うこともあります。

  • ハロ(日暈)
    太陽の周りに虹がかかっているように見える大気光学現象。
    雲の中にある氷の粒に太陽の光が屈折して起こる現象で、地震とは関係ありません。

  • 彩雲
    太陽の光を受けた雲が虹色に輝いて見える現象。 地震とは関係ありません。
    彩雲は、太陽の光が雲の水滴によって回折することで発生します。

  • 朝焼け、夕焼け
    太陽光が、大気中の塵や水蒸気によって散乱されることで、空が赤く見える現象。
    地震とは関係ありません。

地震雲とこれらの気象現象を区別するためには、雲の持続時間、高度、形状の変化などを注意深く観察する必要があります。
例えば、飛行機雲は比較的短時間で消えることが多いのに対し、地震雲とされる雲は長時間同じ場所に停滞していることが多いといわれています。
また、地震雲とされる雲は、高度が高く、形状が変化しにくいという特徴があります。

地震雲の観測方法と注意点

地震雲を観測する際には、以下の点に注意する必要があります。

  • 雲の形状、色、動きなどを注意深く観察する。
    特に、帯状、放射状、波紋状、断層状など、地震雲の特徴とされる形状の雲に注目しましょう。
  • 長時間同じ場所に停滞している雲かどうかを確認する。
    通常の雲は風によって流されて移動しますが、地震雲とされる雲は長時間同じ場所に停滞していることが多いといわれています。
  • 気象条件などを考慮し、地震雲とよく似た気象現象と区別する。
    上記で紹介したような、地震雲とよく似た気象現象と区別するためには、雲の持続時間、高度、形状の変化などを注意深く観察する必要があります。
  • 地震雲の目撃情報に惑わされず、冷静に判断する。
    地震雲の目撃情報がSNSなどで拡散されることがありますが、必ずしも地震の前兆とは限りません。
    冷静に判断し、必要以上に不安にならないようにしましょう。

地震雲に関する最新の研究動向や議論

地震雲と地震の関連性については、依然として科学的な結論が出ていません。
しかし、近年、地震雲の発生メカニズムを解明しようとする研究が行われています。 例えば、地震発生前の地殻変動によって電磁波が発生し、 それが大気中のイオンに影響を与えて雲の生成を促進する可能性が指摘されています。
また、地殻から放出されるラドンなどの放射性物質が、雲の形成に影響を与える可能性も研究されています。 電離層も、地表や地下の電磁気的な変化に敏感に反応する可能性があり、地震雲の発生に影響を与える可能性があります。

しかし、これらの研究は、まだ初期段階であり、地震雲と地震の関連性を明確に示すには至っていません。
今後の研究の進展が期待されます。

いざというときに備える充実の44点セット あかまる防災
5

【PR】いざという時のための防災セット
・38品目全44アイテムで準備万端
・72時間分の備え
・防災マニュアル付きで安心
・安心のサバイバルセット

まとめ

地震雲は、地震の前兆現象として古くから認識されていますが、科学的な根拠は曖昧です。
地震雲とされる雲の多くは、通常の雲の変異型であり、気象学で説明できます。
しかし、地震雲の発生メカニズムを解明しようとする研究も進んでおり、今後の研究の進展によって、地震雲と地震の関連性が明らかになる可能性もあります。

地震雲の有無にかかわらず、日頃から地震への備えをしておくことが重要です。 家具の固定や非常持ち出し袋の準備など、できることから対策を始めましょう。

表:地震雲の種類と特徴

地震雲の種類 形状 特徴
帯状形地震雲 長い帯状 最も多く目撃される。雲が長いほど地震発生が近い。幅が太く色が濃いほど揺れが大きい。
放射状形地震雲 震源方向から放射状に伸びる 太く長く、色が濃いほど大きな揺れの地震が発生する。
波紋形地震雲 水面の波紋のような形 波紋の中心点が震源となる。雲が長くて色が濃いほど揺れが大きい。
断層形地震雲 空と雲の部分がくっきりと層状に分かれている
肋骨状形地震雲 あばら骨のような形
弓状形地震雲 弓の形 雲のたわみの中心点が震源地となる。
竜巻形地震雲 たつ巻状 長時間停滞している場合は地震雲である可能性が高い。

さ行の最新記事8件