南極の海を旅すると、雄大な景色の中に、まるで巨大なテーブルのような氷山を目にすることがあります。
これが「卓状氷山」と呼ばれる、南極特有の氷山です。
この記事では、卓状氷山の定義、形状、形成過程、他の種類の氷山との違い、そして海洋生態系や気候への影響について解説していきます。

卓状氷山の定義

卓状氷山とは、上面が平坦な巨大な氷山のことです 。その名の通り、テーブルのような形状をしていることから、テーブル型氷山とも呼ばれます。
南極海に多く見られ、厚さが1000メートルに及ぶものもある巨大な氷山です。
定義上、氷山と呼べるものは、面積が100平方メートル以上あり、海面上に出ている部分が5メートル以上のものです。

卓状氷山の形状と大きさ

卓状氷山は、その名の通り、上面が平らで、側面が切り立った崖のような形をしています。
まるで巨大な長方形や正方形の板のように見えます。

大きさは様々ですが、一般的には幅200~1000メートル、高さ50~80メートル程度です。
しかし、中には非常に巨大なものもあり、海面上の高さが100メートル、幅が150キロメートルに達するものも存在します。
2000年3月には、ロス棚氷から全長286キロメートル、幅40キロメートルという記録的な大きさの卓状氷山が分離しました。
これは、面積にして1万800平方キロメートルにもなり、東京都の約5倍に相当します。
卓状氷山は、海面上に出ている部分よりも、水面下の部分がはるかに大きいのが特徴です。
典型的な卓状氷山では、海面上の高さと海面下の深さの比は、およそ1対5になります。

卓状氷山の形成過程

卓状氷山は、南極大陸周辺に広がる棚氷から分離して形成されます。
棚氷とは、陸上の氷床が海に押し出されて浮かんでいる部分のことです。
棚氷は、雪が降り積もって氷となり、それが自重でゆっくりと海に向かって移動することで形成されます。
棚氷の末端が海に達すると、波や海流の力によって割れ、卓状氷山となって海に流れ出します。
卓状氷山は、一般的に棚氷から形成されますが、氷河の末端である氷舌から分離して形成されることもあります。

卓状氷山が分離する際には、まるで爪が長く伸びて先端が折れるように、比較的平らな縁を持つ幾何学的な形状になることが多いようです。
また、卓状氷山は、形成されてから溶解または分解するまで、長いものでは10年以上もその形を保っていることがあります。

棚氷の形成には、海氷が重要な役割を果たします。
海氷は、海水が凍ってできた氷で、南極大陸周辺の海域では、冬になると広範囲にわたって形成されます 。
海氷は、風や波の影響を受けて移動し、互いに衝突したり、積み重なったりすることで、厚く大きな氷盤へと成長していきます。これらの氷盤が海岸線に沿って集積することで、棚氷が形成されます。

卓状氷山と他の種類の氷山との違い

氷山は、その形状によって卓状氷山以外にも、ドーム形氷山、傾斜形氷山、尖塔形氷山、風化形氷山、不規則な形の氷河氷山などに分類されます 。

氷山の種類 形状の特徴 分布
卓状氷山 上面が平坦で、側面が切り立った崖のような形 南極海
ドーム形氷山 ドーム状の形
傾斜形氷山 一方の面が緩やかに傾斜している形
尖塔形氷山 尖った塔のような形 北極海
風化形氷山 風や波によって侵食された、複雑な形
氷河氷山 不規則な形

卓状氷山は、上面が平坦であることが最大の特徴で、他の種類の氷山とは容易に区別できます。
この平坦な形状は、卓状氷山の安定性と融解速度に影響を与えていると考えられます。
他の種類の氷山と比べて、卓状氷山は転覆しにくく、また、表面積が大きいため、太陽光を効率的に反射して融解速度を遅らせることができます。

一般的に、卓状氷山は南極海で、尖塔状の氷山は北極海で見られると言われています 。しかし、南極海でも卓状氷山が割れて尖った氷山になることがあり、逆に北極海でもカナダ北部のエルズミア島やグリーンランド北岸の棚氷から卓状氷山が形成されることがあります。

卓状氷山が南極大陸やグリーンランドの周辺海域で多く見られる理由

卓状氷山は、棚氷から形成されるため、棚氷が発達している南極大陸やグリーンランドの周辺海域で多く見られます。
南極大陸には、ロス棚氷やフィルヒナー棚氷など、大規模な棚氷が数多く存在し 、これらの棚氷から巨大な卓状氷山が分離してきます。

南極大陸の棚氷から分離した卓状氷山の多くは、海流に乗って西へ移動し、ウェッデル海やロス海から低緯度側へと流れていきます。
ウェッデル海の西側では、卓状氷山は北西方向に押しやられ、南極半島の北端にある南極海峡を通過していきます。
南極海峡は、多くの卓状氷山が通過することから、「氷山小路(Iceberg Alley)」と呼ばれています。

卓状氷山が海洋生態系や気候に与える影響

卓状氷山は、海洋生態系や気候に様々な影響を与えます。

海洋生態系への影響

  • 栄養塩の供給
    卓状氷山が溶けることで、氷山に含まれていた鉄などの栄養塩が海に供給されます。
    これは、植物プランクトンの増殖を促し、海洋生態系全体に好影響を与えます。

  • 生物の生息場所
    卓状氷山は、アザラシやペンギンなどの生物にとって、休息や繁殖の場所として利用されます。

  • 海流の変化
    巨大な卓状氷山は、海流を変化させる可能性があります。
    例えば、南極大陸周辺の海流は、通常、時計回りに流れていますが、巨大な卓状氷山が流れ込むことで、海流が乱れたり、方向が変わったりすることがあります。
    これは、海洋生物の分布や移動に影響を与える可能性があります。

気候への影響

  • 太陽光の反射
    卓状氷山は、白い表面で太陽光を反射するため、地球の気温を低下させる効果があります。

  • 海水の冷却
    卓状氷山が溶けることで、周囲の海水が冷却されます。これは、海流や気候パターンに影響を与える可能性があります。

  • 淡水の供給
    卓状氷山は、溶けることで大量の淡水を海洋に供給します。
    これは、海水の塩分濃度や循環に影響を与える可能性があります 。

卓状氷山に関する興味深い事実や最近の研究成果

  • 巨大な卓状氷山
    2000年3月にロス棚氷から分離した卓状氷山は、全長286キロメートル、幅40キロメートルという記録的な大きさでした 。

  • 長方形の卓状氷山:
    2018年には、ラーセンC棚氷から分離した、見事な長方形をした卓状氷山がNASAによって観測されました。

  • A23a
    A23aは、1986年にフィルヒナー・ロンネ棚 から分離した卓状氷山です。
    分離当時、A23a上にはソ連の研究基地Druzhnaya Iが存在していました。その後、海底に接地して30年以上停滞していましたが、2020年に移動を開始しました。

A23a(氷山)

  • 氷山の分離と気候変動
    近年、南極の棚氷から巨大な氷山が分離する事例が相次いでいますが、必ずしも気候変動と関連付けられるものではないという研究結果もあります。
    例えば、アメリー棚氷は、60~70年ごとに巨大な氷山を分離することが知られており、これは、通常の地質学的なプロセスであると考えられています。

  • 砕氷船による探査
    近年では、砕氷船を用いた南極の探査が進められており、卓状氷山を含む氷山の詳細な観測や研究が行われています。

結論

卓状氷山は、南極の海を特徴づける雄大な景観の一つです。
その巨大さと独特の形状は、見る者を圧倒する力を持っています。卓状氷山は、長い年月をかけて形成された棚氷から分離し、時には10年以上も海を漂い続けます。
その間、海流や気候に影響を与えながら、様々な生物の生息場所を提供しています。

近年、地球温暖化の影響が懸念される中、卓状氷山の分離や融解が加速する可能性も指摘されています。
卓状氷山の変化は、海洋生態系や気候に大きな影響を与える可能性があるため、今後の動向に注意が必要です。

今後も、卓状氷山に関する研究や観測が進められることで、地球環境のメカニズムの解明に貢献し、ひいては地球温暖化への対策にも役立つことが期待されます。

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