キャズム

「キャズム(Chasm)」とは、初期市場(イノベーター、アーリーアダプター)と、メインストリーム市場(アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード)の間に存在する、大きな溝(深い谷) を指します。
新製品や新サービスを市場に普及させていく際に、この「キャズム」を超えることが、大きな課題となります。

語源

「キャズム(Chasm)」の語源は、英語の”chasm”です。 「(地面や岩などの)割れ目、裂け目、深い溝」「(意見などの)大きな隔たり、相違」を意味します。

「キャズム」が生まれる背景:イノベーター理論

「キャズム」は、1991年に、アメリカのハイテク・マーケティング・コンサルタントである、ジェフリー・ムーア(Geoffrey A. Moore)が、著書『Crossing the Chasm(邦題:キャズム)』の中で提唱した概念です。
ムーアは、エベレット・M・ロジャースの「イノベーター理論」を基に、「キャズム」について論じています。

「イノベーター理論」とは、新しい製品やサービスが、市場に普及していく過程を、5つの顧客層(イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード)に分類して説明したモデルです。

  • イノベーター(Innovators:革新者)- 冒険心にあふれ、新しいものを積極的に採用する層 (2.5%)
  • アーリーアダプター(Early Adopters:初期採用層)- 流行に敏感で、自ら情報収集し、判断する層 (13.5%)
  • アーリーマジョリティ(Early Majority:前期追随層)- 新しいものに対し、比較的慎重だが、平均よりは早く採用する層 (34%)
  • レイトマジョリティ(Late Majority:後期追随層)- 新しいものに対し、懐疑的で、周囲の多くが採用したのを確認してから採用する層 (34%)
  • ラガード(Laggards:遅滞層)- 最も保守的で、最後まで、新しいものを受け入れない層 (16%)

上記5つの層の()内の数値は、それぞれの層の、市場に占めるおおよその割合です。

「キャズム」が生じる理由

イノベーター、アーリーアダプターは、新技術や、先進性に価値を見出し、購入・採用する傾向があります。
一方、アーリーマジョリティは、実利性や、実用性、普及率などを重視するため、購買・採用に対して慎重です。
この、両者の価値観の大きな違いにより、「キャズム」が生じ、製品・サービスが、メインストリーム市場に、普及しづらくなります。

「キャズム」を超えるための戦略:ボーリングのピンを倒すイメージ

ムーアは、「キャズム」を超えるための戦略として、「特定市場にフォーカスして、支持を獲得し、徐々に周辺市場に拡大していく」ことが重要と説いています。 これは、ボーリングのピンを倒すイメージに例えられます。

  1. ヘッドピン(最初のターゲット市場)を特定する
    最も影響力のある市場セグメント、または顧客層を特定します。
  2. ヘッドピンを狙って、ボールを投げる(集中的にマーケティングを行う)
    特定したターゲット市場に、経営資源を集中的に投下し、支持を獲得します。
  3. 隣接するピン(周辺市場)に波及させる
    ヘッドピンを倒すことで、その影響力を周辺市場に波及させ、徐々に市場シェアを拡大していきます。

「キャズム」の具体例

  • 新技術を用いた製品
    革新的な技術を用いた製品は、最初はイノベーターやアーリーアダプターに受け入れられますが、アーリーマジョリティに普及させるためには、「キャズム」を超える必要があります。
  • BtoBのITサービス
    新しい業務システムやクラウドサービスなどは、最初は先進的な企業に導入されますが、一般的な企業に普及させるためには、「キャズム」を超える必要があります。
  • アプリやウェブサービス
    先進的なアプリや、ウェブサービスも、一般ユーザーに普及するまでには、「キャズム」が存在します。

「キャズム」の使用例

  • 「この製品は、アーリーアダプターには受け入れられたが、キャズムを超えられず、失敗に終わった」
    初期段階では一定の支持を得たものの、メインストリーム市場への普及に失敗したことを説明する。

  • 「キャズムを超えるためには、アーリーマジョリティのニーズを、的確に捉える必要がある」
    メインストリーム市場に普及させるためには、多数派の顧客層のニーズを理解することが重要であることを説明する。

  • 「このサービスは、キャズム理論でいうところの、どの段階にあるのだろうか?」
    製品やサービスの普及状況を、キャズム理論に基づいて分析する。

  • 「まずは、特定の市場セグメントにフォーカスして、キャズムを超える戦略を立てよう」
    特定市場に集中して支持を獲得し、段階的に市場を拡大する戦略を提案する。

  • 「キャズムを超えた製品は、一気に市場シェアを拡大する可能性がある」
    メインストリーム市場への普及に成功した製品は、急成長する可能性があることを説明する。

  • 「あのベンチャー企業は、見事にキャズムを乗り越え、大企業へと成長した」
    ベンチャー企業が、大きな成長を遂げた要因を、キャズムを例に説明する。

「キャズム」と関連する用語

  • イノベーター理論
    新しい製品やサービスが市場に普及する過程を、5つの顧客層に分類して説明したモデル。
  • アーリーアダプター
    イノベーター理論における、初期採用層。
  • アーリーマジョリティ
    イノベーター理論における、前期追随層。
  • プロダクトライフサイクル
    製品が市場に投入されてから、衰退するまでの流れ。
タクヤ
「キャズム」とは、初期市場とメインストリーム市場の間に存在する、大きな溝のことです。
新製品や新サービスを市場に普及させるためには、この「キャズム」を超えることが重要な課題となります。
「キャズム」を超えるためには、アーリーマジョリティのニーズを的確に捉え、特定市場にフォーカスして支持を獲得し、徐々に周辺市場に拡大していく戦略が有効です。
この解説が、「キャズム」についての理解を深める助けになれば幸いです。

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