ビジネスシーンにおいて頻繁に耳にする「マター」という言葉。
多くのビジネスパーソンが何となく使っているのではないでしょうか?
しかし、実際には「マター」には、さらに深い意味や多様な用法が存在します。
本稿では、「マター」という用語の意味について、その語源や歴史的変遷、様々な用法、関連用語との違い、分野ごとの特別な意味合い、類義語・対義語、そして使用上の注意点などを詳しく解説することで、ビジネスコミュニケーションにおける「マター」の理解を深め、より適切な使い方を習得することを目的とします。
加えて、なぜこの言葉がビジネスシーンでこれほどまでに浸透したのか、その理由についても考察していきます。
「マター」の基本的な定義
「マター」とは、英語の “matter” をカタカナ表記した言葉で、ビジネスシーンにおいて「問題」「事柄」「案件」「担当」「責任」といった意味合いで使用されます。
特定の人や部署、役職に対して「○○マター」のように用いることで、案件の担当者や責任者を明確にする役割を果たします。
「マター」の語源と歴史的変遷
「マター」の語源は、ラテン語の “materia” であり 、元々は「木の幹」を意味していました。
その後、意味が変化し「素材」「様々な重さを持つ物体」などを指すようになりました。
興味深いことに、”matter” の印欧語根は “māter-” であり、「母」を意味する “mother” などと共通の起源を持つことが分かります 。
現代では、英語の “matter” を通じて、日本語の「マター」としてビジネスシーンを中心に広く使われています。
「マター」のさまざまな意味と用法
「マター」は、文脈によって様々な意味合いで使われます。主な用法は以下の通りです。
- 個人名+マター
特定の個人が担当する案件や責任範囲を指す。「この件は田中マターで進めています」や「山田さんがクライアントとの交渉窓口なので、この件は山田マターです」のように使います。 - 役職や部署名+マター
特定の役職や部署が担当する案件や責任範囲を指す。
「中途採用の対策立案については人事部マターとなっています」 や「今回のキャンペーンの企画は、広報部マターで進めています」のように使います。 - クライアントマター
特定のクライアントに関連する案件や業務を指す。
「今回のプロジェクトはA社クライアントマターです」 や「B社の顧客対応は、全てカスタマーサポートチームがクライアントマターとして対応しています」のように使います。 - 自分マター
自分が担当する案件や責任範囲であることを強調する際に用いる。
「これは自分マターなので、必ずやり遂げます」 や「プレゼンの成功は、自分マターとして捉えています」のように使います。 - どこマター
どの個人や部署が担当しているのかを尋ねる際に用いる。
「この案件は、どこマターですか?」 や「新しいサービスの開発は、どこマターで進めているのでしょうか?」のように使います。 - 政治マター
政治関連の案件や、政治的な判断が必要となる事柄を指す。
「この問題は政治マターなので、慎重に進める必要がある」 や「新法案の制定は、完全に政治マターであり、企業として静観するしかない」のように使います。 - ○○マター
特定の責任範囲を指す。「経理マター」 や「営業マター」、「人事マター」のように、担当業務を明確にする際に使います。
特定の分野における「マター」
「マター」は、特定の分野において特別な意味を持つ場合があります。
- 科学
物質を構成するものを指す。特に、ソフトマターやアクティブマターといった概念は、近年注目されています 。
ソフトマターは、DNA、タンパク質、脂質などの生体高分子やコロイド粒子のように柔らかく大きな物質を指し 、液晶やゲルなども含まれます
これらの物質は、複雑な構造を持ち、構造の柔軟性や内部自由度があるため、多様な物性を示します。
一方、アクティブマターは、外部からのエネルギーによって自発的に運動する物質を指し、バクテリアや細胞などがその例として挙げられます。 - 哲学
認識論や形而上学において、物質や実体、対象などを指す。
古代ギリシャ哲学から現代思想まで、”matter”(物質)は重要なテーマとして扱われてきました。
例えば、デカルトの「我思う、ゆえに我あり」は、精神(mind)と物質(matter)の二元論を前提とした哲学的思考の出発点として有名です。 また、唯物論においては、物質こそが世界の根源であり、精神や意識は物質から派生したものとされます。 - 法律
裁判における「法律問題」を指す場合がある。
裁判では、事実認定と法律適用というプロセスを経て判決が下されますが、「法律問題 (matter of law)」は、後者の法律適用に関する問題を指します
具体的には、事案に適用すべき法律の解釈や、法律上の要件の充足性などが争点となります。
また、アメリカ法では、裁判所の「事物管轄権」を “Subject Matter Jurisdiction”と表現します 。
これは、裁判所が特定の種類の事件を審理する権限を指し、例えば、連邦裁判所は、連邦法に関する事件や州を跨いでの訴訟など、特定の事件についてのみ審理する権限を有しています。
「マター」と関連する用語・概念との違い
「マター」は「担当」「責任」「管轄」といった言葉と関連がありますが、それぞれ微妙な違いがあります。
- 担当: 特定の業務や役割を割り当てられていることを示す。「資料作成を担当する」のように使います。
- 責任: ある事柄に対して、最終的な責任を負うことを示す。「プロジェクトの成功に責任を持つ」のように使います。
- 管轄: ある事柄に対して、権限を持って管理・統括する立場にあることを示す。「この地域は、A警察署の管轄である」のように使います。
「マター」は、これらの意味合いを包括的に含む場合があり、文脈によって使い分けられることが重要です。
特に、「責任」と「マター」の違いは重要です。
「責任」は最終的な説明責任を負うことを意味しますが、「マター」は必ずしもそうではありません。
例えば、「Aさんのマター」は、Aさんが担当者としてその案件に携わっていることを示しますが、最終的な決定権や責任をAさんが持っているとは限りません。
「マター」の類義語と対義語
「マター」の類義語としては、「案件」「事柄」「問題」「課題」「テーマ」などが挙げられます。
また、「担当」「責任」「管轄」も、文脈によっては類義語として使用できます。
一方、「マター」の対義語としては、明確なものが存在しません。強いて挙げるとすれば、「無関係」「非関与」といった言葉が考えられます。
「マター」の使用上の注意点
「マター」はビジネス用語として広く使われていますが、使用にはいくつかの注意点があります。
- 社外の人に対しては使わない
「マター」は社内用語であるため、社外の人に対して使うのは避け、代わりに「案件」や「担当」など、より一般的な言葉を使うようにしましょう。 - 目上の人に対して使う際は敬称をつける
「部長マター」のように、目上の人を指す場合は「○○様マター」「○○さんマター」のように敬称を付け加えるのが適切です 。 - 「マターする」のような動詞としての誤用
“matter” は自動詞であるため、「マターする」といった使い方は誤用です。
正しくは、「担当する」「責任を持つ」のように表現しましょう。 - 誤解を招く可能性
「マター」は、比較的曖昧な表現であるため、誤解を招く可能性があります。
特に、責任の所在や権限範囲が不明確な場合に「マター」を使うと、混乱が生じる可能性があります。そのような場合は、「担当」や「責任者」など、より具体的な言葉を使う方が適切です。
「マター」がビジネスシーンで多用される理由
「マター」という言葉が、日本のビジネスシーンで頻繁に使われるようになった背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 簡潔性
「マター」は、一言で「案件」「担当」「責任」といった複数の意味合いを含んでいるため、簡潔なコミュニケーションに役立ちます。 - 曖昧さ
一方で、「マター」は、ある程度の曖昧さを持つ言葉でもあります。
責任の所在や権限範囲を明確にせず、柔らかく表現したい場合に「マター」は便利な言葉と言えるでしょう。 - 西洋ビジネス文化の影響
「マター」は、英語の “matter” から来た言葉であり、西洋ビジネス文化の影響を受けていると考えられます。
特に、外資系企業や国際的なビジネスシーンでは、「マター」の使用頻度が高い傾向が見られます。
これらの要因が複合的に作用することで、「マター」は、日本のビジネスシーンにおいて独特の地位を築いていると言えるでしょう。
まとめ
本稿では、「マター」という言葉の意味、語源、歴史、用法、関連用語との違い、分野ごとの意味合い、類義語・対義語、使用上の注意点などを詳しく解説しました。
「マター」は、ビジネスシーンにおいて頻繁に用いられる言葉ですが、その意味合いは文脈によって多岐に渡ります。本稿で得た知識を活かし、状況に応じて適切に「マター」を使い分けることで、より円滑なコミュニケーションを実現できるでしょう。
しかし、「マター」は万能な言葉ではありません。曖昧な表現であるがゆえに、誤解を招く可能性も秘めていることを忘れてはなりません。責任の所在や権限範囲を明確にする必要がある場合は、「担当者」や「責任者」など、より具体的な言葉を使うように心がけましょう。
「マター」を正しく理解し、使いこなすことで、ビジネスコミュニケーションをよりスムーズかつ効果的に行うことができるでしょう。