メタトラベル

近年、メタバースの台頭とともに注目を集めている「メタトラベル」。
VRやARなどの最新技術を用いて、自宅にいながらにして世界中の旅行体験を味わえる、まさに次世代の旅行の形と言えるでしょう。

メタトラベルの定義

メタトラベルとは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの技術を用いて、仮想空間上で旅行体験を可能にすることを指します。
現実の旅行では味わえないような、時間や場所、身体的な制限を超えた、全く新しい旅行体験といえるでしょう。
メタバース空間上に構築された観光地を自由に散策したり、現地の文化や歴史に触れたり、他のユーザーと交流したりと、多様な体験が可能です。

メタ観光推進機構は、「観光=情報の消費」と定義し、旅行者は、実際に見たり体験したりするものだけでなく、そこに含まれる情報も消費していると捉えています。
メタトラベルでは、この情報に着目し、多様な視点から観光地を解釈することで、より深い旅行体験を提供することを目指しています。
例えば、歴史的な建造物を訪れた際に、その建物の歴史や建築様式だけでなく、そこで撮影された映画やドラマ、アニメなどの情報も合わせて提供することで、旅行者の興味関心を高めることができます。

メタバースとは?

メタトラベルを理解する上で欠かせないのが「メタバース」の概念です。メタバースとは、「meta(超越)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語で、インターネット上に構築された3次元の仮想空間を指します。
ユーザーはアバターと呼ばれる自分の分身を使って、この仮想空間内を自由に動き回り、他のユーザーと交流したり、さまざまな活動に参加したりすることができます。

メタバースは、単なる仮想空間ではなく、現実世界と密接に連携した、より広大な世界と言えるでしょう。 投資家マシュー・ボール氏は、メタバースの7つの条件として、以下の要素を挙げています。

  • 永続性: 常に存在し続ける世界であること
  • 同期性: リアルタイムで共有され、変化する世界であること
  • 相互運用性: 異なるプラットフォーム間でアセットやデータを移動できること
  • アバター: ユーザーが自身を表現するための分身を持つこと
  • 没入感: ユーザーが仮想世界に没頭できるような感覚を提供すること
  • 経済: 仮想世界内で経済活動が行えること
  • 社会性: ユーザー同士が交流し、コミュニティを形成できること

これらの条件を満たすことで、メタバースは現実世界を拡張し、新たな可能性を創造する場となることが期待されています。

メタトラベルと関連する技術

メタトラベルは、主にVRとARの技術によって実現されています。
VRは、ヘッドマウントディスプレイなどを用いて、コンピューターが作り出した仮想世界にユーザーを没入させる技術です。
一方、ARは現実世界にデジタル情報を重ね合わせることで、現実世界を拡張する技術です。
メタトラベルでは、VRによって現実世界での旅行体験を拡張し、ARによって仮想空間での旅行体験を提供するといった形で、これらの技術が活用されています。

バーチャルリアリティ(VR)

VRは、コンピューターグラフィックスや3D映像技術などを駆使して、人工的に作り出された仮想空間を、まるで現実のように体験できる技術です。
ヘッドマウントディスプレイを装着することで、視界全体が仮想空間の映像で覆われ、頭の動きに合わせて映像も変化するため、高い没入感を得られます。
メタトラベルにおいては、VR技術を用いることで、例えば、エベレスト山頂からの景色を眺めたり、アマゾンの熱帯雨林を探索したりといった、現実では容易に体験できない旅行を、安全かつ手軽に楽しむことができます。

拡張現実(AR)

ARは、現実世界の映像にコンピューターグラフィックスやテキストなどのデジタル情報を重ね合わせることで、現実世界を拡張する技術です。
スマートフォンやタブレットのカメラを通して見ることで、現実の風景にデジタルコンテンツが追加されたような視覚体験を得られます。
メタトラベルでは、AR技術を用いることで、例えば、街中を散策中にスマートフォンをかざすと、近くの観光スポットの情報や行き方が表示されたり、レストランのメニューやレビューが表示されたりといった、便利なサービスが提供されています。

メタトラベルの具体的な事例

メタトラベルは、すでにさまざまな形で実現されており、その可能性は広がり続けています。ここでは、具体的な事例をいくつか紹介します。

  • メタバース観光プラットフォーム

    • あしびかんぱにーが提供する「バーチャルOKINAWA」では、VRで再現された沖縄の観光名所を巡ることができます。
      国際通りやビーチなどを散策したり、首里城の歴史を学んだり、さらには現地の特産品を購入したりすることも可能です。 「バーチャルOKINAWA」では、沖縄の美しい海や自然をVRで体験できるだけでなく、地元の文化や歴史を学ぶこともできます。

    • 大日本印刷が提供する「バーチャル秋葉原」では、現実の秋葉原の街並みを再現した仮想空間を散策できます。
      アニメやゲームのイベントに参加したり、バーチャルショップで買い物を楽しんだりすることができます。
      現実の秋葉原さながらの賑わいを感じながら、好きな時間に好きなだけ、秋葉原の文化に触れることができます。

    • 国土交通省が実施したメタバースを活用したバスツアーでは、VRゴーグルを装着した参加者が、バス車内から仮想空間上の観光地を体験しました。
      移動中のバスの揺れに合わせてVR映像も変化するなど、臨場感あふれる体験が提供されました。
      この試みは、移動中の車内でもVR体験を楽しめる可能性を示しており、今後のメタトラベルの発展に繋がる事例と言えるでしょう。

  • メタバース旅行コンテンツ

    • Meta Quest 2/3に搭載された「トラベルモード」は、飛行機内でのVR体験を快適にするための機能です。
      巨大なバーチャルスクリーンで映画を鑑賞したり、ゲームを楽しんだり、さらには瞑想アプリでリラックスしたりすることができます。 長時間のフライトも、メタトラベルで快適に過ごすことができます。

      • ルフトハンザドイツ航空では、一部のフライトのビジネスクラスでMeta Quest 3を提供し、旅行やエンターテイメント、ウェルネスなどのMRコンテンツを体験できるサービスを開始しました。 機内でVRヘッドセットを提供する試みは、航空業界におけるメタトラベルの導入を促進する可能性を秘めています。
      • National Geographic Explore VRでは、南極やマチュピチュなどの世界的に有名な観光地をVRで探検することができます。
        氷山を回り込んだり、古代遺跡を散策したりと、まるでドキュメンタリー映画の世界に入り込んだような体験ができます。

      • BRINK Travelerでは、山や渓谷、滝など、世界中の絶景スポットを3Dで楽しむことができます。 美しい自然の風景に囲まれ、心身ともにリラックスできることでしょう。
  • 旅行比較サイト(メタサーチエンジン)

    • trivago、トリップアドバイザー、トラベルコなど、複数の旅行サイトの情報をまとめて検索できるメタサーチエンジンが登場しています。 これらのサイトを利用することで、ユーザーは膨大な数の旅行商品の中から、自分の条件に合った最適なプランを見つけやすくなります。
      近年では、LINEトラベルなどのメタサーチエンジンも人気を集めており、旅行業界におけるメタサーチエンジンの存在感はますます高まっています。

  • その他

    • JTBは、VRを活用したバーチャル修学旅行を企画・実施しています。
      生徒たちはVRヘッドセットを装着し、教室にいながらにして奈良や京都などの歴史的な建造物を見学したり、現地の文化に触れたりすることができます。 バーチャル修学旅行は、時間や費用の制約から解放され、より多くの生徒に教育的な旅行体験を提供できる可能性を秘めています。

    • Google Earth VRでは、世界中のあらゆる場所をVRで探索することができます。
      山や海、都市など、さまざまな風景を360度のパノラマビューで楽しむことができます。 Google Earth VRは、世界中の地理や文化を学ぶためのツールとしても活用できます。

メタトラベルのメリット

メタトラベルは、従来の旅行にはない多くのメリットをもたらします。

  • 時間と場所の制約からの解放

    • いつでもどこでも、好きな時に旅行体験を楽しめるようになります。 忙しい人でも、空いた時間に気軽に旅行気分を味わえます。
    • 移動時間や費用を節約できるだけでなく、天候や季節に左右されることもありません。 雨の日でも、真冬でも、快適な環境で旅行を楽しめます。
  • アクセシビリティの向上

    • 身体的な制限がある人や、経済的な事情で旅行が難しい人でも、仮想空間であれば気軽に旅行体験を楽しむことができます。 すべての人が、旅行の喜びを享受できる社会の実現に貢献するでしょう。
  • 新たな旅行体験の創出

    • 現実では不可能な体験、例えば空を飛んだり、海中を散歩したりといった、非日常的な体験も可能です。 想像力を掻き立てられる、夢のような旅行体験が実現します。
    • 危険な場所や秘境など、現実ではアクセスが難しい場所にも、安全に訪れることができます。 現実世界の制約を超えた、冒険心あふれる旅が楽しめます。
  • 観光客誘致促進

    • メタバース観光で興味を持った人が、実際にその場所を訪れるようになる可能性があります。 メタトラベルは、現実の旅行への関心を高める効果も期待できます。
  • 地域経済の活性化

    • メタバース空間内で、地域特産品の販売やイベント開催などを行うことで、新たな収益源を創出することができます。 メタトラベルは、地域経済の活性化に貢献する新たな手段となるでしょう。
  • 環境負荷の軽減

    • 実際の旅行と比べて、移動に伴うCO2排出量を削減することができます。 環境問題への意識が高まる中、メタトラベルは持続可能な旅行の形として注目されています。

メタトラベルのデメリット

メタトラベルは多くの可能性を秘めている一方で、いくつかのデメリットも存在します。

  • 初期費用と運用コスト

    • メタバース空間の構築やVR/ARコンテンツの制作には、ある程度の費用がかかります。 高品質なVR/ARコンテンツを制作するには、高度な技術と費用が必要となります。
    • また、継続的な運用やメンテナンスにもコストが発生します。 メタバース空間のアップデートやセキュリティ対策など、継続的な費用が発生することを考慮する必要があります。
  • 技術的な課題

    • VR酔いなどの健康面への影響や、技術的な不具合などの問題点も指摘されています。 VR酔いは、VR体験中に吐き気や目眩などを引き起こす症状で、メタトラベル普及の妨げとなる可能性があります。
    • 現実の旅行のように、風を感じたり、匂いを嗅いだり、食事を楽しんだりといった五感をフルに活用した体験は、現状では難しいです。 五感を刺激するリアルな体験は、メタトラベルではまだ実現できていません。
  • 仮想空間に依存することによる弊害

    • メタバースに過度に依存することで、現実世界との関わりが希薄になる可能性があります。 メタトラベルはあくまでも現実の旅行の代替手段であり、現実世界とのバランスを保つことが重要です。
  • 法律面での課題

    • メタバース空間での取引やサービス提供に関する法律が、まだ整備されていない部分があります。 メタトラベルの普及に伴い、新たな法律や規制が必要となる可能性があります。

メタトラベルの将来展望

メタバース技術の進化とともに、メタトラベルは今後ますます発展していくと予想されます。
よりリアルな映像や音声、触覚フィードバックなどの技術が導入されることで、仮想空間での旅行体験はさらに現実のものに近づいていくでしょう。

矢野経済研究所の調査によると、2022年度のメタバース市場規模は1,377億円でしたが、2027年度には2兆円を超えると予測されています。
この市場拡大は、法人向け市場からコンシューマー向け市場への波及によって加速すると考えられています。
メタトラベルは、この成長市場において重要な役割を担うことが期待されています。

また、AI技術との連携によって、ユーザーの好みに合わせたパーソナライズされた旅行体験の提供も期待されます。
例えば、AIがユーザーの過去の旅行履歴や興味関心を分析し、最適な旅行プランを提案してくれるようになるでしょう。

旅行業界では、メタバースを活用した新たなビジネスモデルの創出も進んでいます。
例えば、ANAはバーチャル旅行プラットフォームの設立を目指しており、 旅行会社各社もメタバース観光に力を入れています。
メタトラベルは、旅行業界の未来を大きく変える可能性を秘めていると言えるでしょう。

さらに、Meta Questの最新アップデートでは、パススルー機能の改善や3D空間ビデオのアップロード機能の改善など、メタトラベルをより快適に楽しめるような機能が追加されています。
これらの技術革新は、メタトラベルの普及をさらに加速させるでしょう。

結論

メタトラベルは、VR/AR技術の進化とともに、現実世界と仮想世界を融合させた新たな旅行体験を提供するものです。
時間や場所、身体的な制限を超えて、世界中のあらゆる場所へアクセスできるようになり、観光客誘致や地域経済活性化への貢献も期待されています。
一方で、初期費用や技術的な課題など、克服すべき点も残されています。

メタトラベルは、旅行の概念を大きく変え、より多くの人々に旅行の機会を提供する可能性を秘めています。同時に、現実世界とのバランスを保ちながら、メタトラベルのメリットを最大限に活かしていくことが重要です。今後、メタバース技術がさらに進化することで、メタトラベルはより身近なものとなり、私たちの旅行のあり方を大きく変えていく可能性を秘めていると言えるでしょう。

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