「ルミナリエ」という言葉は、イタリア語で「電飾」を意味する言葉に由来します。
光は、闇の恐怖に対峙し、喜びや安全を導いてくれる象徴であり 、文明や風俗を問わず、人々は古来から光に夢や希望を託してきました。
ルミナリエの起源は、ルネサンス時代後期のヨーロッパ、特にバロック時代のイタリアで盛んに創られた祝祭装飾芸術に遡ります 。
宗教的な祭礼や祝賀行事において、建築物や広場を華やかに彩る装飾が重要な役割を担っていました。
初期のルミナリエは、色紙で覆われた小さな石油ランプを用いたものでした 。その後、電球の発明により、より大規模で複雑な光の表現が可能となり、現在のルミナリエに近い形へと進化を遂げました。現在では、イタリア南部を中心に、様々なデザイン様式の木製の構造体に色とりどりの電球を配置し、三次元的な芸術空間を創造する光の彫刻として発展しています。
ルミナリエの定義と特徴
ルミナリエは、一般的にイルミネーションの一種と捉えられますが、厳密には異なる概念です。
イルミネーションは、建造物や樹木などに電飾を施して装飾することを指すのに対し、ルミナリエは、より芸術性が高く、宗教的な意味合いを持つ祝祭的な光の装飾を指します。ルミナリエでは、白熱電球やLED電球など、様々な種類の電球が使用されます 。
ルミナリエの特徴としては、以下のような点が挙げられます。
- 立体的で壮大な構造物
木材や金属製の骨組みに電球を取り付け、アーチやトンネル、壁面など、様々な形状の構造物を構築します。 - 宗教的な意味合い
ルミナリエは、元々は宗教的な祭礼や祝賀行事に用いられたものであり、現在でもその伝統を受け継いで、聖人や守護聖人を称える祭りなどで見られます。 - 地域文化との融合
各地域の歴史や文化、風土を反映した独自のルミナリエが創造され、地域の一体感を醸成する役割を担っています。 - 芸術性
単なる電飾ではなく、光の配置や色彩、造形などを駆使して、芸術的な空間を創造します。
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具体的なルミナリエの例
神戸ルミナリエ
日本で最も有名なルミナリエとして、兵庫県神戸市で開催される「神戸ルミナリエ」が挙げられます。
1995年の阪神・淡路大震災の犠牲者への鎮魂と都市の復興・再生への願いを込めて、同年12月に初めて開催されました 。当初は1回限りの開催予定でしたが、多くの市民や企業からの要望により、継続開催が決定されました 。
神戸ルミナリエは、イタリア人デザイナーのヴァレリオ・フェスティ氏と神戸市在住の今岡寛和氏によってプロデュースされ、2011年以降はダニエル・モンテベルデ氏が引き継いでいます。
毎年異なるテーマに基づいた作品が制作され、「神戸ルミナリエパスポート」にもその情報が掲載されています。
光の回廊「ガレリア」、光の壁掛け「スパッリエーラ」、入口を飾る「フロントーネ」 、内部に設置される「カッサルモニカ」と呼ばれる光の記念堂 など、壮大な光の彫刻が街を彩り、毎年多くの観光客を魅了しています。
2011年には、東日本大震災の被災地への思いを込めて、「希望の光(Luci di Speranza)」をテーマとした作品群が設置されました 。
また、新型コロナウイルス感染症の流行により、2020年から2022年までは中止を余儀なくされましたが、代替イベントとしてイルミネーション作品の展示や「ロソーネ まちなかミュージアム」、「カッサアルモニカ/音楽の宝箱」などが開催されました。
神戸ルミナリエの経済効果と観光振興
神戸ルミナリエは、震災で大きな被害を受けた神戸の観光産業の復興に大きく貢献しました 。開催当初は、経済的な復興を目的とした側面もありましたが 、現在では神戸の冬の風物詩として定着し、毎年多くの観光客を呼び込んでいます。
その他のルミナリエ
スコラーノのルミナリエ
イタリアのプーリア州スコラーノでは、毎年7月に聖女サンタ・ドメニカを称える祭りが開催され、街全体がルミナリエで彩られます。
高さ40メートルにも及ぶ壮大なイルミネーションは、世界最大級の規模を誇り、多くの観光客が訪れます。
スコラーノのルミナリエは、ペストの流行から街を救った聖女への感謝の気持ちを表すものであり、宗教的な意味合いが強いのが特徴です。
バレンシアのルミナリエ
スペインのバレンシア市でも、毎年3月に開催される火祭りで、ルミナリエの作者としても知られるヴァレリオ・フェスティ氏によるイルミネーションがスエカ通りに設置されます。
慰霊と復興のモニュメント
神戸ルミナリエのメイン会場である東遊園地には、「慰霊と復興のモニュメント」が設置されています。
このモニュメントは、1995年の阪神・淡路大震災で犠牲になった方々を追悼し、震災の記憶を後世に伝えるために建てられました。
震災の犠牲者を象徴するガラスの銘板や、復興への願いを込めた白い正方形タイルの地面など、様々な要素で構成されています。
神戸ルミナリエと同様に、震災の記憶を風化させないための重要な役割を担っています。
ルミナリエの文化的・社会的な意義
ルミナリエは、地域社会や人々に様々な影響を与えています。
- 地域活性化: ルミナリエは、観光客誘致や地域経済の活性化に貢献しています。特に、神戸ルミナリエは、震災後の神戸の復興に大きく貢献したと言われています。
- コミュニティ形成: ルミナリエの企画・運営には、多くの市民ボランティアが参加しており 、地域住民の一体感を醸成する役割を担っています。
- 文化振興: ルミナリエは、地域の歴史や文化を反映した芸術作品であり、地域の文化振興にも貢献しています。
- 癒し: 美しい光は、人々に癒しや感動を与え、心を豊かにする効果も期待できます。
- 震災の記憶の継承: 神戸ルミナリエは、震災の記憶を後世に語り継ぐとともに、震災の教訓を風化させないための役割も担っています。
ルミナリエの課題
ルミナリエは、その美しい光で人々を魅了する一方で、いくつかの課題も抱えています。
- 安全性: 多くの観光客が訪れるため、混雑による事故やトラブルの発生が懸念されます。
- 持続可能性: 電球の大量使用による環境負荷や、運営資金の確保などが課題となっています。
運営資金は、企業協賛金、行政からの補助金、募金などで賄われていますが、近年では協賛金の減少や警備費用の増加などが課題となっています。 - 地域貢献: ルミナリエの経済効果を、より地域全体に波及させるための工夫が必要です。
従来は、会場周辺の道路の渋滞や駐車場の混雑などにより、周辺企業のクリスマス商戦に支障をきたすこともありました。
ルミナリエの展望
ルミナリエが抱える課題を解決するために、近年では、以下のような取り組みが行われています。
- LED電球の導入: 消費電力の削減や環境負荷の低減に貢献しています。
- 開催時期の変更: クリスマスシーズンから1月へ変更することで、混雑の緩和や警備費用の削減が期待されています。
- 会場の分散化: 複数の会場に作品を分散させることで、回遊性を高め、混雑を避ける工夫がされています。
- 有料エリアの設置: 作品をゆっくり鑑賞できる有料エリアを設けることで、新たな収益源を確保するとともに、混雑の緩和を図っています。
- 地域連携: 周辺の飲食店や商業施設との連携を強化することで、地域経済への貢献を目指しています。
- 募金活動の強化: 募金への協力を促すために、「Thank Youカード」を配布するなどの取り組みが行われています。
これらの取り組みを通じて、ルミナリエは、より安全で持続可能なイベントとして、地域社会に貢献していくことが期待されます。
結論
ルミナリエは、単なるイルミネーションではなく、歴史と伝統に裏打ちされた芸術作品であり、地域文化と深く結びついた祝祭です。美しい光は、人々に癒しや感動を与え、地域社会に活気をもたらします。
神戸ルミナリエは、震災の記憶を後世に語り継ぐとともに、神戸の復興の象徴として、市民に希望を与え続けてきました。しかし、近年では、観光イベントとしての側面が強くなり、本来の目的である鎮魂の意義が薄れてきているという指摘もあります 。ルミナリエが、その光で人々を照らし続けるためには、これらの課題と向き合い、地域社会との連携を強化しながら、持続可能なイベントとして発展していく必要があるでしょう。