近年、地球温暖化の影響で、南極大陸の氷床から巨大な氷山が分離し、海を漂流するケースが増加しています。
これらの氷山の中でも特に巨大なものは「メガバーグ」と呼ばれ、その規模は時に都市よりも大きく、環境や生態系に多大な影響を与える可能性を秘めています。
時に静止しているように見えても、海流や風の影響で突如として動き出し、周辺環境に大きな変化をもたらす可能性を秘めているのです。
本稿では、メガバーグの定義、形成メカニズム、気候や環境への影響、そして最新の研究成果について詳しく解説していきます。
メガバーグとは?
メガバーグとは、面積が100平方キロメートルを超える巨大な氷山のことを指します。
これは東京都の面積の約半分に相当する規模であり、宇宙からも観測できるほど巨大です。
メガバーグは、氷河や棚氷から分離して形成され、その厚さは数百メートルに達することもあります。
これらの氷山は、海流や風によって移動し、時には何年もかけて遠く離れた海域まで漂流していきます。
メガバーグの形成メカニズム
メガバーグは、氷河や棚氷から巨大な氷塊が分離することによって形成されます。
この現象は「カービング」と呼ばれ、氷河や氷床の末端で自然に発生するプロセスです 。
カービングは、氷河や棚氷に亀裂が生じ、その亀裂に海水が入り込むことで発生します。
海水が亀裂を拡大させ、最終的に氷塊が分離してメガバーグが形成されます。
近年、地球温暖化の影響で海水温が上昇し、氷棚の融解が加速しているため、メガバーグの形成頻度が増加していると考えられています。
メガバーグが地球の気候や環境に与える影響
メガバーグは、地球の気候や環境に様々な影響を与える可能性があります。
海流の変化
メガバーグは、その巨大さゆえに海流を変化させる可能性があります。
海流は、熱や栄養塩を輸送する役割を担っており、気候や海洋生態系に大きな影響を与えます。
メガバーグが海流を遮断すると、これらの輸送が阻害され、気候変動や生態系の変化を引き起こす可能性があります。
海洋生態系への影響
メガバーグは、海洋生態系にも影響を与えます。メガバーグが融解する際に、周囲の海水温が低下し、塩分濃度が変化します。
これらの変化は、海洋生物の生息域や繁殖に影響を与える可能性があります。
また、メガバーグが漂流することで、海洋生物の移動経路を遮断したり、餌場を奪ったりする可能性もあります。
例えば、2004年に南ジョージア島付近で座礁したメガバーグA38は、ペンギンやアザラシの餌場へのアクセスを阻害し、多くの動物の死を引き起こしました。
淡水の供給
メガバーグは、大量の淡水を貯蔵しています。
メガバーグが融解することで、周囲の海域に淡水が供給されます。
これは、海水の塩分濃度を変化させ、海洋循環に影響を与える可能性があります。
二酸化炭素の吸収
メガバーグの融解は、海洋の二酸化炭素吸収能力を高める可能性があります。
メガバーグから溶け出した鉄分などの栄養塩は、植物プランクトンの成長を促進します。
植物プランクトンは、光合成によって二酸化炭素を吸収するため、メガバーグの融解は間接的に地球温暖化の抑制に貢献する可能性があります。
有名なメガバーグの例
過去に観測された有名なメガバーグの例を以下の表に示します。
Iceberg Name | Year of Calving | Size (sq km) | Origin | Key Feature |
---|---|---|---|---|
A23a | 1986 | 3,900 | フィルヒナー棚氷 | 37年間海底に接地していたが、2020年に動き始めた。ピーク時はニューヨーク市の3倍の大きさがあった。 |
A68a | 2017 | 5,800 | ラーセンC棚氷 | 南ジョージア島に接近し、生態系への影響が懸念された。 |
B15 | 2000 | 11,000 | ロス棚氷 | 観測史上最大のメガバーグ。 |
メガバーグの研究と観測方法
メガバーグの研究には、人工衛星による観測が重要な役割を果たしています。
人工衛星は、メガバーグの位置、形状、移動速度などを広範囲にわたって観測することができます。
また、航空機や船舶による観測も行われています。これらの観測データは、メガバーグの移動経路や融解速度を予測するために利用されます。
最近の研究では、メガバーグが海洋生態系に与える影響についても注目が集まっています。
例えば、メガバーグから溶け出した栄養塩が、植物プランクトンの成長を促進し、海洋の二酸化炭素吸収能力を高める可能性が示唆されています。
具体的には、植物プランクトンの成長に必要な微量栄養素である鉄分がメガバーグの融解水によって供給され、これが植物プランクトンの大規模なブルームを引き起こし、二酸化炭素の吸収を促進すると考えられています。
メガバーグにまつわる興味深い話題
メガバーグA23aは、1986年に南極大陸のフィルヒナー棚氷から分離したメガバーグですが、分離時にソ連時代の研究ステーションを乗せていたという興味深い過去があります 。
メガバーグに関する最新の研究成果
最新の研究では、メガバーグの融解が海洋循環に与える影響について、より詳細な分析が行われています。
例えば、2020年から2021年にかけて南ジョージア島周辺で融解したメガバーグA68Aは、1,520億トンの淡水を海洋に放出したことが、Sentinel-1、Sentinel-3、MODIS、CryoSat-2、ICESat-2という5つの人工衛星を用いた観測で明らかになりました。
これは、ネス湖の貯水量の20倍に相当する量であり、海洋生態系に大きな影響を与えた可能性があります。
A68Aの融解により、南ジョージア島周辺の海水の塩分濃度が低下し、海流や水温に変化が生じたと考えられています。
これらの変化は、島の海洋生態系に深刻な影響を与える可能性があり、今後の研究でその影響が明らかになることが期待されます。
また、メガバーグの融解が地球温暖化に与える影響についても研究が進められています。
メガバーグの融解は、海面上昇に寄与するだけでなく、海洋循環や海洋生態系を変化させることで、地球の気候システムに複雑な影響を与える可能性があります。
結論
メガバーグは、地球の気候や環境に多大な影響を与える可能性を秘めた巨大な氷山です。
地球温暖化の影響でメガバーグの形成頻度が増加している可能性があり、その影響についてより詳細な研究が必要です。
特に、メガバーグA23aのように、南極大陸周辺の繊細な生態系に接近するメガバーグについては、継続的なモニタリングが不可欠です。
今後の研究により、メガバーグの形成メカニズム、移動経路、融解速度、そして気候や環境への影響についての理解が深まることが期待されます。
これらの知見は、氷床のダイナミクスや海洋学における現在の科学的議論にも貢献し、地球温暖化の進行を理解し、その影響を予測するための重要な手がかりとなるでしょう。